菅本先生インタビュー(大阪大学運動器バイオマテリアル学講座)

約3年前に、大阪大学の菅本一臣先生にインタビューに伺ったことがあり、その際の記事を掲載したサイトが閉鎖されてしまったので、許可を頂いて、拙ブログで再度掲載することにしました。



菅本先生は、整形外科の領域で10年以上積まれてきた経験をもとに、多岐に渡って活動されており、TeamLabと共同で開発した「TeamLabBody」をはじめ、様々な産業ともコラボレーションしています。とってもお話が面白くて、皆さんにも是非読んで欲しいなとおもいます。

6月にgaccoというオンライン講座でTeamLabBodyを活用した講座も始まるそうなので、こちらも是非注目です。

菅本一臣先生
大阪大学大学院医学系研究科
運動器バイオマテリアル学講座教授
(研究室のHPはこちら

<先生のプロフィール>
1972年に大阪大学医学部医学科卒業。医学部臨床補助研修を経て、10数年間、いくつかの病院で整形外科医として勤務。特に関節治療を専門に活躍。その後、大阪大学にて研究職に。肩関節・膝関節、骨関節3次元動態解析、人工関節の開発、関節のバイオメカニクス、関節のキネマティクスについて研究をはじめる。約10年前、世界で初めて3D画像解析を用いた整形外科治療シミュレーション技術を開発し、以降様々な分野で実用化されている。今年3月には、TeamLabと共同で、世界で初めて生きた人間の骨格を三次元的に再現したアプリケーション「TeamLabBody」をリリース。現在も運動器のバイオマテリアル研究において精力的に活動されている。(所属学会)日本リハビリテーション医学会,日本肩関節学会日本整形外科学会,日本リウマチ学会,日本股関節学会,日本臨床バイオメカニクス学会,日本バイオマテリアル学会,中部日本整形外科災害外科学会

   
<キャッチフレーズ・スローガン>
臨床の役に立たん研究をして何が面白いんだろう


<インタビュー>

D画像解析に着手するに至った経緯を教えて下さい。

大学を出てから16年間整形外科で医師をやっておりました。骨折や腰痛などの診療ですね。病院で診療している中で、困っている人達を助けたい、そして、臨床に使える実用的な技術を開発したいという思いがずっとありました。

ある時、半年間肩が痛いといって病院に診療にくるおばあさんがいました。レントゲンを撮影すると関節や骨に異常はないので、「加齢による衰えでしょう」といって湿布を渡していましたが、その患者さんはそうではないと。試しにもう一度レントゲン別の角度から撮ってみたところ、関節が脱臼していることが分かったんです。ちょうど今まで見ていた写真だと、正面から見ているだけでしたが、このおばあさんの関節は前後にずれていた為、脱臼だと確認するのが遅れてしまった。そのおばあさんは肩を脱臼したまま半年間生活していました。これまで脱臼の例では上下にずれるケースがほとんどだったので見落としていたのです。そこで、3Dで解析しようということになりました。

3D画像解析は具体的にどのような場面で利用されていますか?

例えば、手をついて骨折するケースが国内で年間数万人レベルで発生しているのですが、手の骨がずれて橈骨が圧潰しまっている場合、潰れた骨を持ち上げて欠損した部分に別のところから骨を補充するのですが、これまでは目分量でやっていたんですね。

ここにあるフォークを私が動かしたとします。それを1ミリもずらさずに元に戻せますか?
不可能でしょう?これと同じように骨の治療目分量でやっていのです。

しかし、3Dで左右の橈骨をCTで撮影して、画像を重ね合わせることによりどの程度変異しているかが一目瞭然で分かるようになりました。
また、手術の際に骨を正確に切るためのシステム(光造形技術で作成する骨切りデバイス、欠損した骨に充填する人工骨の開発など)様々なことを工夫していった結果、手術後も元の関節と全く変わりない形で動かせるようになりました。

以前松井秀喜選手がボールのキャッチングの際に反対の手をついて骨折したことがありましたが、この方法を使えばより効果的に治癒できたかも知れません。


また、膝の関節治療にも応用出来ます。膝関節を悪くした方の為に、人工関節に取り替える手術をしても、ポリエチレンの軟骨部が内側だけすりへって使い物にならなくなってしまうケースがときどき発生しますそのようなときには再手術が必要となるわけで、時に大きな手術となります。X線写真は骨の影絵ですから、輪郭情報から骨が撮影された位置を正確にコンピュータに計算させることが可能となります。それを応用すれば、X線動画から、骨関節の3次元的な動きがわかるようになりました。この技術を用いることによって術後の評価、人工関節の開発など様々なことに役立っています。
日本の約1割の方は膝の痛み、腰の痛みなどを慢性的に抱えている。日本の人口は1億2000万と考えると約1000万人です。

これまで、医療業界では、世界中で様々な研究が行われていたにも関わらず、3D画像解析技術を用いた整形外科治療の改善はほとんど誰も手をつけていなかった。


この技術を用いれば、身体の痛みや機能不全で困っている日本中の、そして世界中の方々の治療に役立てることが出来ます。


現在どのような研究を進め、活動を広げていきたいとお考えですか?

私は3D画像解析を一つの産業にしたいと考えています。自分で使うだけだったら、一週間にせいぜい数人の患者の手術にしか利用できない。これをもし世界中の人に利用したら、とんでもなく大勢の患者さんが喜ぶ。だからこそ、産業にしたい。


現在は北米の医療業界最大手の企業と提携したり、東大・東北大学など日本の80以上の大学や病院をはじめ、アジアの研究機関など様々な組織と連携しながら治療すでに役立てています。日本でも乗馬型トレーニングマシンの開発に協力したり、最近では靭帯の3次元解剖学アプリweb制作会社と共同開発しました。iPadおよびアンドロイドアプリ、teamLab Body \2600)医学教育現場のみならず、デザインやアニメ領域でも多く用いられ始めています。

こうしてみると、あまりステレオタイプの医者ではないと思いますが、色々な人と仕事をするほうが楽しいじゃないですか笑

なので、これからも、3D画像解析を様々な場面で実用化出来るように取り組んでいきたいと考えています。

最後に学生へのメッセージがあればお願い致します!

臨床の従事者は役に立てる場面が沢山あります。患者と接する中でそのことを深く実感することが出来る。医者でも看護婦さんでも誰でも同じです。ありがとうって言われたら凄く嬉しい。

だから、学生さんにはあまり悩まず、今を生きて欲しい。まずは勉強を頑張って下さい。臨床に出てからが本当のスタートです。

ありがとうございました!

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