放射線機器学の基礎:蛍光・電離・透過

放射線の3つの特性

放射線には、3つの特性があります。

   透過:物質をすり抜けて、物質の向こう側へ進む。
   電離:物質と量子レベルで相互作用をおこして、間接・直接的に電離する。
   蛍光:特殊な物質にあたると可視光を放つ。

この3つの特性を使って、写真や映像を撮るのに適しているのが、X線撮影装置です。これは基本どの撮影装置をつかい、どの画像装置を使っていても同じです。

X線撮影装置には、①指定した条件の②X線を一様に発生させ、③被験者に照射することで、④読影に使える画像や映像を作る。装置です。

具体的なX線関連装置

JIS Z4701には主にこんな風にまとめられています。(機器学p.18)

   X線高電圧装置:X線制御装置・高電圧発生装置
   X線源装置:X線管装置・照射野限定装置
   X線機械装置:透視撮影台・X線撮影台・保持装置・CT撮影用架台および寝台
   X線映像装置:XI.I装置、X線関節撮影用ミラーカメラ装置・X線テレビジョン装置
X線画像処理装置:ディジタル撮影(DR)装置、ディジタル透視(DF)装置

①、②によって、高い電圧を駆使して撮影に必要なX線を発生させ、被験者との相互作用により(電離・励起)、変化したX線を(透過)、増感紙システムや輝尽蛍光体を使ったCRカセッテ、半導体素子を使ったFPDなどによってX線による蛍光を画像に変換するのでした(蛍光)

(出典:hardware hack)


複雑な構造を持っているように見えますが、基本的には、以下のことを踏まえて内容をまとめていくといいのではないでしょうか。

X線を発生させるには安定した高電圧が必要

  X線発生装置は高い電圧のもとで電流を真空管に流している(家庭用電源で発光している蛍光灯が200Vだとしたら1000倍弱)ので、一定の条件を維持するのが大変なのです。

何故インバータ装置が使われるのか?
(出典:wikipedia[整流後の直流から三相交流を作り出す回路])

インバータは小さな出力で安定して高電圧エネルギーが供給出来る仕組みがあるからです。

これまでは、+と-が交互に切り替わる交流波を組み合わせて、出来る限り一定に近い電圧、電流をかけられるように工夫してきた。

そして、交流を3つ組み合わせた三相交流を使って、電圧の最低値と最大値の差を可能な限り小さくしたことで、安定して高い電圧を供給し、X線管球で使えるエネルギーを増やしたんです。

管電圧と管電流の関係

電気の流れはよく、水に例えられますが、簡単に言うと、管電圧はどの高さから水を落とすか、管電流は実際どれくらい水が流れているかを表しています。

その為、

焦点が大きく、高い管電圧、小管電流の時は飽和電流になり易く、
(水の流れる口が小さく、勢いが強いので、これ以上は電流がもう流れないというレベルに達し易い)

焦点が小さく、低い管電圧、大きな管電流の時は空間電荷電流になり易いです。
(水の流れる口が大きく、勢いが緩やかなので、頑張ればもっと電流が流れる)

また、管電流とフィラメント電流の間には管電流特性、フィラメント電圧とフィラメント電流の間にはフィラメント特性があります。それぞれの特性によっても流れ易さ、流れにくさがあります。


発生したX線(情報キャリア)を画像にする為に

X線の電離、透過、蛍光の性質を用いて、写真を作ることを話しました。透過するX線の線
束に偏りがあると、画像に必要な要素(画像コントラスト、鮮鋭度、少ないざらつき=モト
ル)が十分でなく、診断に使えない画像を作ってしまいます。


もし被験者に照射して写真効果を悪くする要素があったら未然に防がないといけない。その為にグリッドを使っています。



グリッドは線減弱係数の高い物質と低い物質を交互に薄く張り合わせることで、入射角度
がばらばらになっている散乱X線の斜入射を防いでくれます。(グリッドについてはJIRAの
資料があります。)

また、患者さんの身体の厚さ(XY方向とZ方向のX線吸収差)に応じて照射線量を変調させる
AEC(Auto Exposure Control)という機構が存在します。ただし、一定線量でX線を遮断
するスイッチの性能などによって、短時間特性と長時間特性というものがあるので、使う
時に気をつけましょう。(機械がおばかでかわいいやつなんで、こっちで気を利かせてあ
げる必要があるっていうことです。)

X線光子を蛍光作用を用いて、どうやって画像に変換しているのか?

X線エネルギーを受けて蛍光する物質を使うことで、画像を形成します。アナログの場合は増感紙、デジタル画像の場合は輝尽蛍光板やFPDを用います。

因みに、放射線の検出器にもX線フィルムや半導体の電離や輝尽蛍光を用いるものが存在します。要は放射線による作用を何に応用するかによって、用途や機械の仕組みが変わってきます。

撮影後にコントラスト補正をかけられるDR(Digital Radiography)は便利だと思います。システム感度を変更すれば、再撮影を行う必要なく読影可能な画像を作ることが出来るからです。

(ただし、CRカセッテの説明書では、注意書きとして、システム感度は点検しないと変動するから気をつけるようにと書いてあります。また、それでも読影に的外れな場合は、何度も撮り直しになる。)

蛍光作用:タングステン酸カルシウム、酸硫化ガドリニウムetc
光子を計測可能な電気信号に変換する:光電子増倍管など

アナログな電気信号を、デジタルデータに変換する(標本化と量子化)

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